ましろ 壱

ふかい霧の日。
2023 年 7 月 9 日 (日) 18 時 28 分 。
娘にメッセージを送る。

『玄関前に
ギャーギャー鳴いてる
すりガラス越しに
白くて
耳があって
目が黒くて
尻尾がある
生き物がいる
網戸にすると逃げて見えんのじゃ
何やろ、、、? 』

まじでドキドキした。
だって山の中だし。
まさか猫が
玄関先から
家の中を除き込むとは。


予測不可能なできごと編


ギャー!ギャー!ギャー!
近くで何かが大声で叫んでいた。
熊の親子かな。
早朝、沢の向こうから子熊の泣き声が聞こえていたからね。
濃霧で、窓からは何も見えない。
一体何の動物?と思いつつ、何気に玄関戸の通風扉を見て足が止まる。
耳つき白シルエットに目玉が2つ。

電話の娘に催促され、恐る恐る扉を開けたら、階段にシロネコ。
いつでも逃げられる体勢で座っていた。
猫はニャーニャー鳴くよね?
この世の終わりのような叫び声は、喉が枯れてるのかな?
まいご猫? 捨て猫? もともと野良猫?
玄関前から階段まで数歩後退したけど、私の顔を見ても猫は逃げない。
そしてなんだかとっても、「お願いだにゃ! 助けて欲しいにゃ! ごはんが食べたいんだにゃ!」と、目で、全身で、訴えてる気がした。

これはまぁ、猫好きにしか分かってもらえないでしょうけど (笑) 、要するにNNN ( ねこねこネットワーク ) を通して、我が家へ辿りついたのではないか?と思ったのである。
理由は、建物が数戸あるのにうち限定、私しか在宅していない日に、2階の玄関に突然現れ、天敵の狐やハクビシンや熊などの獣に襲われる可能性が高いにも拘わらず、大声で鳴いていたからだ。
野良猫は鳴かない。
獣に自分の居場所を教えることになるし、自分が狙った獲物が逃げてしまう。

あぁどうしよう!
しばらく逡巡・・・・・・・・。
これまで山で猫を見かけたことが一度も無いので、保護するキャリーは勿論のこと、ちゅーるやカリカリの持ち合わせがない。
お腹がすいたでしょう、さぁどうぞ、そのまま家の中へ・・・それはさすがに無理。


真面目ですけど。
猫にご飯を与える行為は、大人なんだから、その場限りのいい加減な対応は駄目だと思う。
今後どのような形であれ、その命と向き合う覚悟を持つ気概が必要だ。
ましてや別荘地。
月の半分しか住んでいない。
やっと安心して、たらふく食べられると思っていたのに、主は現れず。
ポツンと玄関で待つ白猫の姿を想像した。
ごめんね。
それが私の出した答えだった。


霧が晴れ、白猫も姿を消した。
助けを求めた命を振り払った。
助けられたはずの命を助けなかった。
自宅で待つ2匹のサイベリアンと、命の重さは変わらない。
罪悪感がずっと残った。

つづく。
 

>